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07.05.01:10 GO HOME |
もはやいつの話だと言われても仕方ない、5月がお誕生日の真史さんへの捧げものです
大変お待たせして大変申し訳ないです(土下座
追記にありますのでどうぞ!
真史さんのみお持ち帰りOKですv
*7/5 11:00 一ヵ所文章に間違いがあったので修正しました。申し訳ありません
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「お客さん」
カウンターの中の店主に声をかけられ、独り黙々と酒を飲み物思いに耽っていた次元がふと店の壁にかかった古びた柱時計に視線を向けると、鈍色に光る大振りの針はいつの間にか午前三時近くを指そうとしていた。
「…ああ、悪い。随分長居しちまった」
気付けばあんなに大勢いた客も姿を消し、店内はいつの間にか次元ひとり。表の看板のネオンも落とされ、数時間前までは煩い程だった店の外の繁華街の喧騒も今はない。いつにない気怠いと感じるほどの酩酊感。少々、いや、かなり飲みすぎたようだ。
迷惑料のつもりで酒の代金に少し多めのチップを加えてカウンターテーブルに置くと、
「そんな日もあるでしょう。足元にお気をつけてお帰りください」
初老のバーテンダーはにこりと微笑み、きっちりと酒の代金だけを受け取って残りを次元に手渡した。
「また、どうぞ」
「…そうさせてもらうぜ」
次にこの街に立ち寄るのがいつになるのか。それは次元にも見当がつかなかったが、そう答える。それでも機会があればまた来てもいいと思うぐらいには居心地のいい店だった。
古びた重いドアを押して、初夏の生ぬるい空気が立ち込める外へと足を踏み出した。さすがにこの時間ともなれば人通りもないが、遠くからは楽しげな笑い声も微かに聞こえてくる。次元は声のする方へ背を向け、石畳の道に僅かに靴の音を響かせながら暗い通りを歩き出す。繁華街特有の濁った空気。次元のような男にとってこう言う場所は清廉な場所よりもよほど落ち着く場所だ。
歩きながらポケットから取り出した煙草に火を付け、ゆっくりと白い煙を吐いた。アジトに居るのがなんとなく気づまりでこうやって飲みに出ていたが、それでもまだ素直に帰るつもりにもなれない。どうしたものか。街灯の光の届かない暗がりでぼんやりと立ち尽くし逡巡していると。
「遅ぇよ」
不意に、少し先の電柱の陰から聞き慣れた声が聞こえてきた。弱々しい光を放つ街灯の下に見慣れたシルエットを見つけ、次元は思わず眉間にしわを寄せた。
「…誰も迎えに来いなんて言ってねえぞ」
「何言ってんの。うちの大事な相棒に何かあったら大変デショ?」
白い煙を吐き出しながら言うと、街灯の下の派手なジャケットの男も同じように煙を燻らした。ただ違うのは、次元がボヤキ節なのに対して、ルパンはそんな次元を面白がっているということだ。
どうしてここがわかった? なんてことは聞いたって無意味だということは分かっているから、初めから聞く気などない。携帯電話か、帽子の裏地の中か、タイピンか、靴の底か、それともジャケットの襟の裏か、…あるいはその全部か。どこかに発信機が組み込まれているのは間違いない。共に仕事をするようになった初めのうちこそ、人を信用しないかのようなこそこそとした監視行為を非難してみたりもしたものだが、そのたびにのらりくらりと躱され言いくるめられるものだから、付き合いも長くなった今となっては怒る気にもならない。自分の持ち物全部を毎回確認するのも面倒だから好きにはさせているが、こんな風に一人になりたいときにはやっぱり少々鬱陶しくもある。
「ちょっとちょっと次元ちゃん」
次元が咥えた煙草の端を噛み潰しルパンに踵を返すと、慌てて追ってくるのが背中越しに聞こえた。石畳に響く足音が二つに増え、静かな建物の間にこだまする。ジジッと微かに音を立てて街灯が小さく明滅した。
「ちょっと。次元ちゃんてば」
「…ついて来んじゃねえよ」
「今更どこ行こうっての?」
「別にどこにも行かねえ。アジトに帰る」
「そっち遠回りじゃないの」
「別にどこ通って帰ろうが俺の勝手だろ。酔い覚ましに散歩だ」
「何言ってんの。随分飲んだんでしょ。そんな足元が覚束ねぇんじゃ危ねえぞ?」
「ガキじゃねえんだ。ひとりで帰れる」
「そう言うなって。折角迎えに来たんだ一緒に帰ろうぜ」
「うるせぇ誰も迎えに来いなんて頼んでねえんだほっとけって!」
「…怒ってるの?」
「怒ってねぇ」
「嘘。やっぱり怒ってる」
「怒ってねぇって言ってんだろ!」
売り言葉に買い言葉というべきか。後ろからかけられた言葉に思わず次元が気色ばんで振り向くと、目の前のルパンはそんな次元を面白そうに見つめ返す。
「あは。やっとこっち向いた」
「…チッ」
計略に乗せられた気がして、それも面白くない。『ん?』と小首を傾げるルパンからぷいと視線を逸らし小さく舌打ち。何をこんなに苛ついているのか。短くなった煙草を足元に落として乱暴に踏み潰した。
「…そう怒るなよ。不二子なら大人しく帰ったぜ? ちゃんと獲物もここにあるし」
そんなこと聞きたいわけじゃねえし、怒ってねえって。そう告げようとしたのに言葉にはならず、次元はただ鼻を鳴らしただけだった。
本当に怒っているわけではないのだ。何故こんなところで独り飲みすぎるほどに飲んでいたのかと聞かれたら、単にそんな気分だったからとしか言いようがない。初老のバーテンダーの言葉を借りるわけではないが、正に、『そんな日もある』ということだ。
別に不二子がどうこう言うつもりはないし、獲物が惜しかったわけでもない。大体がそんなことは今に始まったことではないのだから、今更目くじらを立てるだけ労力の無駄でしかない。無駄と分かっていることに労力をかけるほど、マメで根気のある性格ではないことは自分が一番良く分かっている。
「…怒ってる?」
「だから。怒ってねえっての」
それでもこちらの顔色を窺うように覗き込んでくるルパンの顔が、何故かやけに心細そうな子供っぽい顔に見えて、思わず次元は声を出して笑ってしまった。
「お前、それだけ俺の機嫌を取ろうとするってことは、毎度毎度不二子に出し抜かれることに少しは罪悪感だのを感じてるわけだな?」
少し意地悪にそう言ってやると、思わぬ反撃を受けたというような顔をしたルパンは煙草を咥えたままの唇を尖らせる。
「…まぁそう言うなって。俺だってお前に迷惑かけてる自覚はあるんだしよ…」
もにょもにょと言葉を濁すルパンの困り顔を横目に、少しだけすっきりした。やはりどこかで嫉妬でもしていたのだろうか。そう思ったら今度はそんな自分が可笑しくてまた少し笑ってしまった。
「笑うなよ」
「気にするな。お前を笑ったんじゃねぇって」
「…とりあえず帰るか?」
「ん」
アジトの方向へと振り返るルパン。新しい煙草に火を点け、今度は次元もその背中に素直に従った。
結局のところいつだって、自分の帰るところはそこにしかないのだ。
~Fin~
リクエストは「お迎えルパンさんで、犬も食わない夫婦喧嘩もしくは痴話げんかを挟みつつ、最後はやっぱり二人仲良く~」ということだったのですが…あれ、かなり糖度低めになっちゃったのはもしや墓標後に書いたからなのか…
なんだかリクエストに沿えてない感満載で申し訳ないです。
ご不満でしたらお気兼ねなく返品してやってください←
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