11.16.10:17 [PR] |
08.12.00:00 8/12 譲れる物と譲れない物 |
365日のお題【8/12】です。
(お題についての詳細はこちらをご覧下さい)
お題:譲れる物と譲れない物
・銭形警部メイン
・ハードボイルドを目指して玉砕しました
・ために残念な感じです…
OKでしたら追記へどうぞ
いつもは暑苦しくて鬱陶しいと思う蝉の鳴き声が、この奇妙なほどの静けさに包まれた部屋にいる今だけは少し恋しいと思う。程よく冷房の入った室内では空調の音と、目の前に座る男が書類をめくる音だけが小さく響く。殺伐と降り注ぐ陽の光もここには届かない。
この部屋のなんともいえない緊張感が嫌いだった。人を威圧し、萎縮させる空気が。その空気とは即ち、権力。誰もが一度はその席を目指すものらしいが、銭形は一度もそんなことを思ったことはなかった。権力は時に自由も与えてくれるが、机に縛られるのは嫌いだ。自分の人生は現場にこそあると信じている。現場の最前線でルパンを追うことこそ自分の人生であると。
「…随分派手にやってくれたらしいじゃないか」
書類に目を通し終わった男がじろりとこちらを見上げてくる。
「ルパンは逃走した。その上、市内で銃撃戦を繰り広げて民間人にまで危害が及んだそうではないか。いくらルパン逮捕の大義名分があろうともそれを振りかざしたがために民間人に危害が加わるようなことがあってはならない。そうだろう?」
「…はっ。その通りであります」
それは紛れもなく正論だ。但し、ある一方向からのみ見れば、の話ではあるが。
言いたいことは山ほどあった。例えば、ルパンを取り逃がす結果になったのは自分の考えを聞き入れようとしなかった上層部の不用意な行動のためであるとか、その逃走の最中に怪我を負った『民間人』が実はルパンを目の敵にしていた裏組織の人間ばかりであるとか、実は警察がその『民間人』と結託してルパンを亡き者にしようとしていたのだとか、その抗争に巻き込まれそうになった『本当の民間人』を助けたのがルパンであるとか。
だが、今はまだそのときではない。おそらくさっきまで署長が読んでいた報告書にはそれらの事実は一切触れられていないはずである。いや、署長職にあるこの男ですらも信用できないのだ。思った以上に根は深いらしい。
「…君は減給3ヶ月。降格処分にならんだけマシだと思いたまえ」
「……はっ…」
苦いものを噛んだように顔を歪めながらも銭形はそれに意を唱えなかった。耐えることも必要なのだと必死に煮えくり返る腹の中で自分に言い聞かせる。小さい悪をいくら追いかけてもいたちごっこになるばかりで巨悪は倒せない。冷静にそう思えるようになったのはいつのころからだっただろうか。
『とっつぁんが真実を知りたいって言うんなら、俺は手を貸してやってもいいぜ?』
昨夜自分に向かって不敵に笑った好敵手の顔が脳裏を過ぎった。
確かにルパンは泥棒で銭形にとって憎むべき存在ではあったが、その行動にはいつも信念があり理由があった。騙されることはあっても裏切られることはなかった。そういう意味では、銭形はルパンを信用していた。目の前の男よりもよほど。
「…明日までに報告書と始末書だ。いいな」
「わかりました」
ぴしりと敬礼をひとつして、くるりと踵を返す。こんな息の詰まるところに長居したくはない。
『俺と手を組めとはいわねぇさ。一時休戦ってことでどうだ?』
『そんなことが出来るか!』
『俺は信じてるんだぜ? とっつぁんが目の前の悪を見過ごすことができねぇ人間だってコト』
『………』
『ま、考えといてくれよな』
部屋の外は耳に痛いほどに音が溢れていた。蝉の声。署内の雑踏。パトカーのサイレン。
「くそっ」
苛々と煙草を取り出して火をつける。すると通りかかった職員に喫煙室へ行けと咎められてしまった。慌てて喫煙室に飛び込み大きく溜息をつく。答えは出ているのだ、考えるまでもなく。ルパンの言うとおり自分は目の前の悪を見過ごすことなど出来ないのだから。
「ルパンの奴め…」
後は自分の信念の問題。宿敵に手を貸してもらうのをよしとするか否か。だがそれも、とっくに答えは出ていた。
「あ、警部、こんなところにいらっしゃったんですか」
歳若い部下がひょこっと喫煙室のドアを覗いてきた。
「報告書と始末書の件なんですけど…」
「…そんなものは必要ない」
「は?」
銭形は咥えていた煙草を揉み消すと、勢いよく喫煙室を飛び出した。
「ちょっと…警部どこへ…!!」
「捜査だ!」
組織の都合上譲らないといけないものがあったとしても、警察官としての、警部・銭形幸一としての良心だけは譲るわけにはいかない。
「だが、この件が片付いたら次はお前だ。待ってろ、ルパン」
警察署の廊下を颯爽と歩きながらひとりごちた銭形の耳に、『のぞむところだぜ』というルパンの声が聞こえた気がした。
ハードボイルドが書きたいんですー!!どうやったら書けますかーーー!!だれかー教えてー…OTZ
銭形警部の信念みたいのは書き応えあるんだよなぁ絶対。
もっとかっこよく書きたいなぁ…
最後まで読んで下さってありがとうございました!!
(お題についての詳細はこちらをご覧下さい)
お題:譲れる物と譲れない物
・銭形警部メイン
・ハードボイルドを目指して玉砕しました
・ために残念な感じです…
OKでしたら追記へどうぞ
いつもは暑苦しくて鬱陶しいと思う蝉の鳴き声が、この奇妙なほどの静けさに包まれた部屋にいる今だけは少し恋しいと思う。程よく冷房の入った室内では空調の音と、目の前に座る男が書類をめくる音だけが小さく響く。殺伐と降り注ぐ陽の光もここには届かない。
この部屋のなんともいえない緊張感が嫌いだった。人を威圧し、萎縮させる空気が。その空気とは即ち、権力。誰もが一度はその席を目指すものらしいが、銭形は一度もそんなことを思ったことはなかった。権力は時に自由も与えてくれるが、机に縛られるのは嫌いだ。自分の人生は現場にこそあると信じている。現場の最前線でルパンを追うことこそ自分の人生であると。
「…随分派手にやってくれたらしいじゃないか」
書類に目を通し終わった男がじろりとこちらを見上げてくる。
「ルパンは逃走した。その上、市内で銃撃戦を繰り広げて民間人にまで危害が及んだそうではないか。いくらルパン逮捕の大義名分があろうともそれを振りかざしたがために民間人に危害が加わるようなことがあってはならない。そうだろう?」
「…はっ。その通りであります」
それは紛れもなく正論だ。但し、ある一方向からのみ見れば、の話ではあるが。
言いたいことは山ほどあった。例えば、ルパンを取り逃がす結果になったのは自分の考えを聞き入れようとしなかった上層部の不用意な行動のためであるとか、その逃走の最中に怪我を負った『民間人』が実はルパンを目の敵にしていた裏組織の人間ばかりであるとか、実は警察がその『民間人』と結託してルパンを亡き者にしようとしていたのだとか、その抗争に巻き込まれそうになった『本当の民間人』を助けたのがルパンであるとか。
だが、今はまだそのときではない。おそらくさっきまで署長が読んでいた報告書にはそれらの事実は一切触れられていないはずである。いや、署長職にあるこの男ですらも信用できないのだ。思った以上に根は深いらしい。
「…君は減給3ヶ月。降格処分にならんだけマシだと思いたまえ」
「……はっ…」
苦いものを噛んだように顔を歪めながらも銭形はそれに意を唱えなかった。耐えることも必要なのだと必死に煮えくり返る腹の中で自分に言い聞かせる。小さい悪をいくら追いかけてもいたちごっこになるばかりで巨悪は倒せない。冷静にそう思えるようになったのはいつのころからだっただろうか。
『とっつぁんが真実を知りたいって言うんなら、俺は手を貸してやってもいいぜ?』
昨夜自分に向かって不敵に笑った好敵手の顔が脳裏を過ぎった。
確かにルパンは泥棒で銭形にとって憎むべき存在ではあったが、その行動にはいつも信念があり理由があった。騙されることはあっても裏切られることはなかった。そういう意味では、銭形はルパンを信用していた。目の前の男よりもよほど。
「…明日までに報告書と始末書だ。いいな」
「わかりました」
ぴしりと敬礼をひとつして、くるりと踵を返す。こんな息の詰まるところに長居したくはない。
『俺と手を組めとはいわねぇさ。一時休戦ってことでどうだ?』
『そんなことが出来るか!』
『俺は信じてるんだぜ? とっつぁんが目の前の悪を見過ごすことができねぇ人間だってコト』
『………』
『ま、考えといてくれよな』
部屋の外は耳に痛いほどに音が溢れていた。蝉の声。署内の雑踏。パトカーのサイレン。
「くそっ」
苛々と煙草を取り出して火をつける。すると通りかかった職員に喫煙室へ行けと咎められてしまった。慌てて喫煙室に飛び込み大きく溜息をつく。答えは出ているのだ、考えるまでもなく。ルパンの言うとおり自分は目の前の悪を見過ごすことなど出来ないのだから。
「ルパンの奴め…」
後は自分の信念の問題。宿敵に手を貸してもらうのをよしとするか否か。だがそれも、とっくに答えは出ていた。
「あ、警部、こんなところにいらっしゃったんですか」
歳若い部下がひょこっと喫煙室のドアを覗いてきた。
「報告書と始末書の件なんですけど…」
「…そんなものは必要ない」
「は?」
銭形は咥えていた煙草を揉み消すと、勢いよく喫煙室を飛び出した。
「ちょっと…警部どこへ…!!」
「捜査だ!」
組織の都合上譲らないといけないものがあったとしても、警察官としての、警部・銭形幸一としての良心だけは譲るわけにはいかない。
「だが、この件が片付いたら次はお前だ。待ってろ、ルパン」
警察署の廊下を颯爽と歩きながらひとりごちた銭形の耳に、『のぞむところだぜ』というルパンの声が聞こえた気がした。
ハードボイルドが書きたいんですー!!どうやったら書けますかーーー!!だれかー教えてー…OTZ
銭形警部の信念みたいのは書き応えあるんだよなぁ絶対。
もっとかっこよく書きたいなぁ…
最後まで読んで下さってありがとうございました!!
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